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2017/02/24

“Abrazo”の不思議

今では、世界各地多くの人々に楽しまれ、日本でも若い世代から高齢者まで多くのファンを持つ「タンゴ」。華麗な足さばき、情感豊かなダンスに見惚れてしまうものです。プロダンサーのステージを鑑賞するのもひとつの楽しみ方ですが、自分で踊って楽しむのもいいものですよ。


    
タンゴはアブラソ (抱擁) を通してお互いの動き、心の動きを感じながらゆったりと歩いていくように踊るダンスです。女性は男性のリードに身を任せた状態で後ろへ、後ろへとステップを進めながら移動していきます。どんな障害物があるか目に見えない状態で後ろ向きに歩くというのは、結構不安でハラハラしますよね。女性がこの動きをスムーズに行うには、相手を十分に信頼してリードを任せられる信頼関係が必要不可欠。
タンゴの社交場「ミロンガ」などの場では、見知らぬ人と踊るケースも多々あります。初対面の人といきなり信頼関係が築かれるものではないので、アブラソのなかで相手の動きを感じ、何を感じているのか互いに探り合いながらコミュニケーションを図っていかなければなりません。もちろん、相性の合わない相手もいるかもしれません。でも、アブラソを通して人の温かみを肌で感じ、互いに分かり合おうとするそのひと時こそ、タンゴの面白さではないかと思います。


    
タンゴのアブラソやステップの特徴を活かし、タンゴダンスをカップルや夫婦へのセラピーやアルツハイマーやパーキンソン病、自閉症など様々な疾患の治療に活用する動きが広まっています。日本でも東京にNPO法人 日本タンゴセラピー協会が設立され、様々な活動をとおしてタンゴセラピーを日本に紹介・推進されています。
タンゴのステップは、パーキンソン病患者の体のバランス改善に、認知症患者には記憶力向上に繋がったという報告が様々な国で発表されています。また、肌の触れ合いにより過度なストレス状態を良好な状態に戻す癒しホルモン 、オキシトシンやセロトニンの分泌を促すとも言われており、タンゴを踊ることで癒し効果を得、ストレス解消にもなるそうです。
タンゴは様々なスタイルで踊ることができるので、それぞれに合わせ踊り方を変えていける点も治療の現場でも実用的なのでしょう。
    
現代社会は、インターネットや携帯電話の急速な発達により人とのコミュニケーションのあり方が変化しつつあります。確かにとても便利な時代でその恩恵は多岐にわたりますが、そこに潜む落とし穴もあります。相手も自分と同じ温かい血が通う一人の人間。それを肌に感じ、お互いを分かり合うこと、受け入れあうことに努めれば、匿名性を利用し不必要に攻撃的な発言で傷つけ合うこともなくなるのではないでしょうか。


    
タンゴのアブラソは単に抱き合う形ではなく、踊りながら心と心が会話をするための言葉のようなもの。世界に多くいるタンゴファンは、このアブラソでの会話に興じています。3/29 (水)からは桜タンゴフェスティバルが開催されます。
あなたもアジアの人々と無言の会話を楽しんでみませんか?

2017/02/10

タンゴ界にイノベーションを巻き起こした三大巨匠

アストル・ピアソラ。ピアソラの名を知らなくとも、タンゴにあまり詳しくない方でも、サントリーローヤルのCMにも起用された"リベルタンゴ"という曲は耳にしたことがあるでしょう。"リベルタンゴ"を作曲したピアソラは、タンゴをベースにクラシック、ジャズの要素を融合させた独自の演奏形態を築き上げた「タンゴの革命児」として日本でも有名ですが、タンゴ界にはピアソラ同様、斬新な発想でタンゴ音楽に革新をもたらした音楽家がいます。今回はその中でも3名の巨匠をご紹介したいと思います。


  


フアン・カルロス・カセレス。今や多くのグループが演奏するまでになった "タンゴネグロ (黒いタンゴ)"というジャンルを確立したアーティスト。タンゴ音楽のルーツの1つでもあるアフロによる影響を尊び、管楽器や打楽器等も取り入れつつアフリカから奴隷が持ち込んだ音楽 "カンドンベ"、"ムルガ" とタンゴを融合させた"タンゴネグロ (アフロタンゴ) の父"と言われる人物です。
2007年、ティエンポが設立10周年を記念し東京、福岡で開催したラテンフェスティバル 「アニマテ!」にフアン・カルロス・カセレス率いる "タンゴ・ネグロ・トリオ"が出演しました。同氏は昨年永眠しましたが、2007年の 「アニマテ!」出演が惜しくも生涯初めてで最後となる日本での公演となりました。来日以降、日本でも急激に人気の高まった"タンゴ・ネグロ・トリオ"。再来日が待ち望まれていただけに、同氏の訃報にファンに大きな衝撃を与えました。




  
タンゴの偉大な詩人 オラシオ・フェレール。ウルグアイ出身で後にアルゼンチン国籍を取得した作家、詩人、タンゴ歴史家です。オラシオ・フェレールはそれまでのタンゴの歌詞に新しい流れを生み出しました。作詞を手掛けた曲は200曲を超え、なかでも“Balada para un loco (ロコヘのバラード)” と “Chiquilín de Bachín (チキリン・デ・バチン」)” は、その歌詞を聞くだけでアルゼンチン国民が胸を熱くするアルゼンチンの国歌に値するタンゴの名曲です。両曲ともにかのアストル・ピアソラが作曲を担当しました。オラシオ・フェレールはアストル・ピアソラが世に知れ渡る以前から、彼の演奏のファンだったそうです。極度のスランプに陥っていたピアソラに、タンゴとオペラを融合したタンゴ・オペリータを提案し二人の共演で発表した「ブエノスアイレスのマリア」で起死回生を果たしました。
2014年に他界した同氏は晩年もステージで自身の手掛けた楽曲を圧巻の歌唱力で歌い上げるなど、歌手としても人気を博しました。




  
そして、最後の一人は今年6月に100歳を迎える生きる伝説、オラシオ・サルガン。ピアノの名手としてだけでなく、不協和音を積極的に取り入れ、エレキギターを採用するなど大胆な発想で多くの名作を生み出してきた偉大な作曲家でもあります。作曲、編曲を手掛けた楽曲は400曲にものぼります。2010年に日本でも全国ロードショーされた映画「アルゼンチンタンゴ 伝説のマエストロたち」にも登場するマエストロの一人。1960年に結成した楽団キンテート・レアルは伝説の楽団と言われ、日本でも3回の公演を果たしています。観衆の前での演奏からは引退を表明したオラシオ・サルガンに代わり息子セサール・サルガンが楽団を引き継ぎ、その当時の親子の関係を記録したヒューマンドキュメンタリー映画 “SALGAN & SALGAN“が昨年アメリカ、アルゼンチン、スペインで公開され反響を呼びました。
  
3月末にティエンポが開催する桜タンゴフェスティバル。第3回目となる今年は「絶えず進化し続けるタンゴ」をテーマに今回ご紹介した3名の巨匠へオマージュの意を込めたプログラムを企画しています。
来日する音楽ユニット SIN FRONTERASのベーシスト  カルロス・エル・テーロ・ブスキーニはフアン・カルロス・カセレスの薫陶を受け、"タンゴ・ネグロ・トリオ"のメンバーとして来日したアーティスト。そして、アナ・カリーナ・ロッシはウルグアイタンゴ界の後継者としてオラシオ・フェレールに発掘され支持された歌手です。そんな二人が昨年始動した音楽プロジェクト SIN FRONTERASのコンサートは3/27 (日)にティエンポ・ホールで、また3/26 (土) には西鉄ホールでのミロンガで福岡が誇るタンゴトリオ Trio Los Fandangosとの共演で巨匠たちが手掛けたタンゴを演奏する予定です。
そしてキュメンタリー映画 “SALGAN & SALGAN“の日本初の上映会は3/26 (土) にティエンポ・ホールで開催。
興味のある方は是非ご来場ください。

桜タンゴフェスティバル ウェブサイト